テレワーク用ブースの開き扉に於ける開口部材の遮音性能を検証

伊弉末 俊夫(Toshio Isamatsu)

1. 目的

2020年以降,新型コロナウィルスの影響によりテレワーク用ブースを提案されるメーカーが増えてきている.
今回,弊社の規格製品『スライド加工ピンチブロック#07-TS(以下ピンチブロックという)』(詳細は後述「3.」にて)を使用しテレワーク用ブースメーカーのチャットボックス㈱(製品名:チャットボックス)の協力を得て,扉(戸当たり部)周辺の開口部材がブース全体の遮音性にどのように影響するかの比較試験を行なった.(写真1)
さらにチャットボックス㈱側より当設置場所での消防法(当地域)の規定である「非常放送が可動式ブース内において65db以上の音圧であること」の測定試験の要請があり,合わせて実施した.

写真1 現地チャットボックス全体


写真1 現地チャットボックス全体

2. 試験項目

2.1 隣接するブース同士の遮音性能

比較試験:①遮音材なし ②パテ埋め ③ピンチブロック

2.2 ブース内から外部への遮音性能

※合わせて一般的スキマ用開口部材と比較し検証
比較試験:①遮音材なし ②パテ埋め ③低反発スポンジ ④モヘア ⑤ピンチブロック

2.3 ブース内における非常放送の音圧レベル値

確認試験:①扉開放状態 ②パテ埋め ③ピンチブロック

3. 『スライド加工ピンチブロック#07-TS』の特徴

3.1 商品構成

『#07-TS』という形状は,「スライド加工ピンチブロック」という商材の1つであり,NR・EPDMのブレンドゴムの表面に抵抗を緩和させる弊社オリジナルの滑り加工(摩耗試験10万回クリア)を施した商品である.(写真2)

3.2 表面処理

通常,建具を閉める際,ゴム素材が建具の一部に接触してからラッチが掛かるまでの軌道中,建具面はゴムと抵抗を起こし続ける.僅かな距離ではあるが,それが扉全体からみると大きく使用勝手に影響する.当製品は,ゴム表面にスライド加工をすることで,ゴムの弾性(圧着力)を活かしつつ開閉時の抵抗を緩和させ,接触面積を気にせず遮音や気密に有効な効果を可能にしている.(図1)

写真2 #07-TS 【w=9.0・t=5.5】

図1 #07-TS の扉閉時の 変形イメージ



3.3 隙間の追従性

当製品はスキマに合わせてラインナップが選択でき,クリアランス,建具の軌道や使用条件等により,使用する形状も変わってくる.今回の当ブースの扉4方枠に関しては,2形状が候補に挙がったが,最終的に『#07-TS』が適当と判断し使用決定した.
※建具と戸当りとの各部位(4方)のクリアランスは,4.0~5.5mmの範囲であった.

4. その他スキマ用開口部材2点(試験項目2.2)

4.1 低反発スポンジ(写真3)

エプトシーラー/日東電工
※メーカーにより商品名が異なる.
EPDMゴムを基材とした半連続気泡型スポンジ.
今回の測定試験に於いては,当商材が建具との接触によりグリップすることで,相応な抵抗が起こる可能性があると判断し,弊社のスライド加工にて表面処理し,測定を行うこととした.  

4.2 モヘア(写真4)

材質(繊維):PP(ポリプロピレン樹脂)
一般に市販されているスキマ用シール材.

写真3 低反発スポンジ 【w=9.0・t=5.0】

写真4 モヘア 【w=9.0・t=7.0】



5. 当ブース内設備環境 ※一部情報のみ

・室内寸法(写真5)/幅・奥行(最大)共に850㎜×高さ1,790㎜(最大)
・ブース素材/コンパネ(壁・天井・扉:不燃化粧板仕上げ)
・扉(写真6)/ガラス付(t=6㎜)
・床:タイルカーペット貼り
・換気装置(写真7):天井換気扇(入室と同時に稼働)
・換気口(写真8):壁面調節式ベンチレーター(常時開放状態)

写真5 ブース内部

写真6 ブース正面




写真7 換気装置

写真8 換気口



6. 測定方法

6.1 遮音性能試験(図2)

試験項目『2.1』及び『2.2』に関しては,ブース(A室)を音源室とし,音源室内に試験音を発するためのスピーカーを配置し音源室内に1ヶ所の測定点をとる.測定試験『2.1』の受音点は,B室内及び測定試験『2.2』では,A室ドア前に受音点を設定.

図2 音源室と受音点の関係

6.2 音圧レベル確認試験(図3)

 試験項目『2.3』に於いては,消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条の規定に基づいた執務通知が設けられており,音に関する規定として「可動式ブース内における音圧が65デシベル以上となることが確認できること」と記載されている.当試験では,当ブースが設置されているビル内(1階フロア)において,実際に非常放送(アナウンス+サイレン)を流し試験を行った.ただし,非常放送のスピーカーとの距離、設置場所の暗騒音との関係等々、設置環境によって,測定値は当然異なることが予想される.よって当試験は,あくまで現在の設置条件における測定値として評価するため,フロア平面図を非公開とし,試験項目に『扉開放状態』を追加した.また,試験の効率性を考慮し,受音室はC室を使用.
図3に示す通り,ブースC室内測定点において全周波数帯域の音を含む音圧レベル(A特性音圧レベル)の最大値を測定した.

図3 非常放送測定の測定点

7. 試験結果

7.1 試験項目『2.1』より(図4)

遮音材なし,パテ埋め,ピンチブロックの全てが,250Hzから1kHzまで,ほぼ数値が近似していることから,当周波数音域に関しては,当ブースそのものの遮音性の限界と推測する.そして『ピンチブロック』設置後の差異(効果)は.1kHz以降に表われ,『パテ埋め』とほゞ同等の効果が得られた.
125Hz周辺では,若干『パテ埋め』より『ピンチブロック』の数値が良く出ているが,これに関しては,当日建具と枠との勘合部に於いて,構造上パテ埋めが,外部から完全密封出来なかったことから生じた共振によるプラス値であったとも考えられるが,逆にピンチブロック『#07-TS』を選択したことで圧着度合が当周波数音域でうまく活かされていると判断している.

7.2 試験項目『2.2』より(図5)

当試験に於いては,一般的に使用されているスキマ用開口部材2種類を加え,比較検証試験を行なった.125Hz~500Hzまでは測定値がいずれもほゞ変わらないことから,当ブース内から外部への遮音性としては,当ブースそのものの限界と推測する.
当試験では,スキマ用開口部材の比較検証を行い,500Hz以降にそれぞれの特徴が表れた.
『モヘア』に関しては,スキマシール材として一般的に市販されている商品だが,『遮音材なし』と同じラインを辿っており,PP繊維による緩衝材として有効であることは想像できるが,遮音目的には向いていない商材であることが確認できる.
また,『低反発スポンジ』と『ピンチブロック』は,パテ埋めに若干劣ってはいるが,改善方向に向かってほゞ同等のラインを辿っており,遮音効果が出ている.  
低反発(EPDM系)スポンジは,ゴム基材の比重と半連続気泡の構成から,開口部のスキマのバラツキへの追従性に優れており,それによってピンチブロックと同等値が得られたと考えられる.
ただし,『4.1』に記したとおり,今回当素材にスライド加工処理を行ったが,使用する部位によっては,扉の摺動性に影響する素材であることは,注意すべき点である.

7.3 測定項目『2.3』より(図6)

  試験結果の『扉開放状態』の音圧レベルに対して『パテ埋め』,『ピンチブロック』共に消防組織法の規定範囲内の結果を得る事ができた.

図4 隣接するブース同士の音響透過損失

図5 ブース内から外部への音響透過損失




〇非常放送鳴動時のALL PASS 音圧レベル

※ALLPASS:全周波数帯域の音を含んだ測定値

図6 ブース内における非常 放送の音圧レベル



8.最後に

この度,チャットボックス㈱製テレブースに於いてスピーチプライバシー保護を目的とした遮音測定試験を実施させていただきました.その中で,遮音とは相反する条件(通気性,消火設備の設置,非常放送の音圧規定など)を同時に満たさなければならないというかなり厳しい構造空間ではありましたが,開口部材メーカーとしてそれなりの効果が証明できたことは,評価できるのではないかと考えます.また,開口部材といえども様々な差異もご確認いただけたかと存じます.
この度,当テーマに関してご快諾いただいたテレワーク用ブースメーカーのチャットボックス㈱様に於かれましては,情報公開並びに現場での対応等々全面的にご協力いただき,また測定に対応頂いた高橋建設㈱ミュージックキャビン事業部様,その他関係各者の皆様に対し,この場を借りまして心より御礼申し上げます.

以上